映画

『White Eye(白い自転車)』Tomer Shushan

原題:White Eye 監督:Tomer Shushan ブリリア ショートショートシアター ONLINEにて観賞。(1月11日まで配信) アカデミー賞の短篇映画賞にもノミネートされた本作。20分弱の本編はワンカット。夜のT字路で交錯する人生が語る「正義」の不条理。短篇とい…

『理大囲城』香港ドキュメンタリー映画工作者

原題:理大圍城 英題:Inside the Red Brick Wall ある場面だけでその映画の記憶が心に深く刻み込まれるとき、その場面には言葉にならないものが蠢いている。本作の終盤に出てくる「階段」がまさにそれで、カメラが捉えている人物たちの表情もわからないのに…

『ゴッド・セイブ・アス マドリード連続老女強姦殺人事件』ロドリゴ・ソロゴイェン

原題:Que Dios nos perdone 監督:Rodrigo Sorogoyen 今年の東京国際映画祭で三冠(グランプリ、監督賞、男優賞)を獲得した『ザ・ビースト』の監督ロドリゴ・ソロゴイェンの2016年の作品。『ザ・ビースト』を映画祭で観た直後にスターチャンネルでたまたま…

『あのこと』オードレイ・ディヴァン

女性だけが子供を産めるという事実を、私たちは「どれだけ」知っているのか。それが何を意味するかを、男性は「どうやって」知るのか。おそらくそれは、出産を描いた作品からは得られないものなのだと思い知らされた。絶対に産まないと決意した女性の闘いの…

『マザーズ(Shelley)』アリ・アッバシ

原題:Shelley 監督:Ali Abbasi 『ボーダー 二つの世界』でカンヌある視点部門グランプリを受賞し、今年はカンヌのコンペに『Holy Spider』が選出された(女優賞を獲得)アリ・アッバシの長編デビュー作。 ジャンル映画の意匠をまとっているように見せかけ…

『VORTEX』ギャスパー・ノエ

原題:Vortex 監督:Gaspar Noé (フランス映画祭2022にて鑑賞) エンドロールから始まり、クレジットには氏名と共に生年が提示される。 開巻しばらくすると、画面は二分割される。その二つの画面は別の人物を追うこともあれば、一画面と変わらぬ画にただ「…

『冬の旅』アニエス・ヴァルダ

原題:Sans toit ni loi(英題:Vagabond) 監督:Agnès Varda 本作は、主人公であるモナの死体が発見される場面から始まる。そして、彼女と出会った人々の証言に導かれながら、彼女の旅路が映し出されていく。彼女の末路は前提となるも、旅の始まりは全く描…

『アフター・ヤン』コゴナダ

原題:After Yang 監督:Kogonada “テクノ”と呼ばれる人型ロボットが、一般家庭にまで普及した未来世界。茶葉の販売店を営むジェイク、妻のカイラ、中国系の幼い養女ミカは、慎ましくも幸せな日々を送っていた。しかしロボットのヤンが突然の故障で動かなく…

『ホテル』ワン・シャオシュアイ

原題:The Hotel(旅館) 監督:王小帥(Xiaoshuai Wang) 東京フィルメックスにて鑑賞 ワン・シャオシュアイの監督作で個人的に最も印象に残っているのは『重慶ブルース』だったりするのだが、同作は東京国際映画祭で観たきり観られていない(劇場未公開)…

『地中海熱』マハ・ハジ

原題:Mediterranean Fever 監督:Maha Haji 東京フィルメックスにて鑑賞 長編一作目、二作目(本作)と続けてカンヌの「ある視点」部門で上映されたマハ・ハジ監督は、本作で脚本賞を受賞。プロットの妙というより、一つ一つの描写を丁寧に積み重ねていく物…

『R.M.N.』クリスティアン・ムンジウ

原題:R.M.N. 監督:Cristian Mungiu 東京国際映画祭にて鑑賞 人間にとって「合理的」の「理」とは、必ずしも論理や理性の「理」ではない。 正当化すべき感情が先立つとき、理屈は単なる手段へと堕す。 地元の働き手は出稼ぎへ行き、人手不足となったパン工…

『クロンダイク』マリナ・エル・ゴルバチ

原題:Klondike 監督:Maryna Er Gorbach 東京国際映画祭にて鑑賞。 ウクライナに在りながら、親ロシア派勢力が高まるドネツク地方で、「壁」を失った家に住み続けようとする子を宿した妻と、何とか逃げようとする夫。イデオロギーらしきものによって引き裂…

『パシフィクション』アルベルト・セラ

原題:Tourment sur les îles 監督:Albert Serra 東京国際映画祭にて鑑賞。 日仏学院(現在のアンスティチュ・フランセ東京)でアルベルト・セラの作品を初めて観たのは、もう10年前になる。(2022年の2月だった) フランス語字幕で観た『騎士の名誉』と英…

この通りはどこ? あるいは、今ここに過去はない(ジョアン・ペドロ・ロドリゲス、ジョアン・ルイ・ゲーラ・ダ・マタ)

原題:Onde Fica Esta Rua? 監督:João Rui Guerra da Mata、João Pedro Rodrigues 東京国際映画祭で鑑賞。 パウロ・ローシャ『青い年(Os Verdes Anos)』をめぐるドキュメンタリー。 同作は、日本で劇場公開された初めてのポルトガル映画らしい。(1980年…

鬼火(ジョアン・ペドロ・ロドリゲス)

原題:Fogo-Fátuo(英題:Will-o'-the-Wisp) 監督:João Pedro Rodrigues 東京国際映画祭(2022)にて鑑賞。 ジョアン・ペドロ・ロドリゲスのレトロスペクティブが企画され、クラウドファンディングに参加して、アテネフランセ文化センターでの上映に心躍り…

『フランス』ブリュノ・デュモン

「映画批評月間 Vol.04 フランス映画の現在をめぐって」にて鑑賞 (会場:ユーロスペース) ブリュノ・デュモンがレア・セドゥを主演に映画を撮るという事実自体が既に興味深いのだが、実際に見てみると、「スター映画」の変化球としての居心地の悪さ、社会…

『秘密の森の、その向こう』セリーヌ・シアマ

私も少しまえに身内が他界したこともあって、母を亡くした母親の方に自分の感情が向かいながら見はじめる。身内の死はまさに、身の内に大きな欠落が起こる喪失感であり、自分の一部(感じ方によっては半分、それ以上)が失われるような感覚になる。その要因…

『ブリュノ・レダル、ある殺人者の告白』

原題:Bruno Reidal 監督:ヴァンサン・ル・ポール(Vincent Le Port) 「映画批評月間 Vol.04 フランス映画の現在をめぐって」にて鑑賞 (会場:ユーロスペース) 共感や感情移入のみが作品受容の原動力になってしまうのは、文芸を嗜むうえで至極残念な態度…

『Corniche Kennedy』ドミニク・カブレラ

『Corniche Kennedy』(2016) 監督:ドミニク・カブレラ(Dominique Cabrera) (MUBIにて鑑賞) 日本にはほとんど紹介されていないドミニク・カブレラ監督による2016年の作品。ローラ・クレトン(Lola Créton)の主演作ということで観てみることにした。彼…

『チャチャ・リアル・スムース』クーパー・レイフ

原題:Cha Cha Real Smooth 監督:クーパー・レイフ(Cooper Raiff) (Apple TV+にて鑑賞) 監督・脚本・主演を務めるクーパー・レイフは1997年生まれの25歳ながら、本作は長編監督作2作目。1作目の『Shithouse』は2020年のSXSW(サウス・バイ・サウスウエ…

『FLEE フリー』ヨナス・ポヘール・ラスムセン

原題:Flugt 監督:ヨナス・ポヘール・ラスムセン(Jonas Poher Rasmussen) カタカナにすると〈自由〉と同じ「フリー」。しかし、“FLEE”は“FREE”を許されない場所から逃げること。主人公アミンが「自分の居場所」に辿り着くまでの物語だが、そこには、安全…

NTLive『リーマン・トリロジー』(演出:サム・メンデス)

第75回トニー賞の演劇部門において作品賞、演出賞、主演男優賞、装置デザイン賞、照明デザイン賞の5部門で受賞を果たした『リーマン・トリロジー』。ロンドン公演を収録したナショナル・シアター・ライブ(NTLive)が一週間限定でTOHOシネマズ日本橋にて再公…

『ニューオーダー』ミシェル・フランコ

公式サイト 原題:Nuevo orden 監督:ミシェル・フランコ(Michel Franco) 本作は2020年のヴェネツィア国際映画祭で審査員グランプリを受賞しているのだが、その他の受賞結果を目を向けてみると、金獅子賞『ノマドランド』(クロエ・ジャオ)、監督賞『スパ…

『ドンバス』セルゲイ・ロズニツァ

原題:Donbass 監督:セルゲイ・ロズニツァ(Sergei Loznitsa) ドキュメンタリー映画3作品が2020年に初めて劇場公開されたセルゲイ・ロズニツァが2018年に発表した本作は、「劇映画」。事実に対峙する姿勢、真理を追究する方途は、ドキュメンタリーでのそれ…

『夜を走る』佐向大

公式サイト ソーシャル・ディスタンス。付かず離れず。関係と無関係のあいだ。 〈他者〉が〈自己〉にとって持ち得る意味。それによって自分が相手をどう思っているか、相手が自分をどう思っているか、それを知る。自分自身に空虚を感じている場合、そうした…

『シークレット・チルドレン 禁じられた力』アンドリュー・ドロス・パレルモ

監督:アンドリュー・ドロス・パレルモ(Andrew Droz Palermo) 原題:One & Two(2015) Netflixでの配信がひとまず6月6日迄ということで観た(けど、U-NEXTでは見放題のままだった)。ティモシー・シャラメがブレイクする前、2015年の主演映画(といっても…

『トップガン マーヴェリック』ジョセフ・コシンスキー

トニー・スコットが監督したトム・クルーズ主演の『トップガン』(ト揃いな映画だったんだな)を初めて観たのは、トニー・スコット追悼特集として組まれた早稲田松竹の2本立てだった。今から10年前の2012年。彼の遺作となってしまった『アンストッパブル』が…

『ライフ・ゴーズ・オン 彼女たちの選択』ケリー・ライカート

『ライフ・ゴーズ・オン 彼女たちの選択』(2016) 監督:ケリー・ライカート(ケリー・ライヒャルト)Kelly Reichardt 原題:Certain Women 主人公たちは皆、自分に課された務めを果たしつつ、自分なりの愉しみに生きる希望を見出している。しかし、それは…

『マイスモールランド』川和田恵真

今年3月にNHK-BS1で放映された本作を観た。瑞々しい実直さが画面に充満していた。「懸命に生きている人物たち」を懸命に生きているキャストたち。それをまっすぐに見つめるカメラ…を忘れてしまう、まなざし。テレビというメディアに載ったことで、マスメディ…

『マイ・ニューヨーク・ダイアリー』フィリップ・ファラルドー

『マイ・ニューヨーク・ダイアリー』フィリップ・ファラルドー 監督:フィリップ・ファラルドー(Philippe Falardeau) 原題:My Salinger year 原作も映画もタイトルは《My Salinger Year》。原作の邦題は『サリンジャーと過ごした日々』。内容からすると、…