『ライフ・ゴーズ・オン 彼女たちの選択』ケリー・ライカート

『ライフ・ゴーズ・オン 彼女たちの選択』(2016)

監督:ケリー・ライカート(ケリー・ライヒャルト)Kelly Reichardt

原題:Certain Women

 

 

主人公たちは皆、自分に課された務めを果たしつつ、自分なりの愉しみに生きる希望を見出している。しかし、それは容易く十分な希望を保証してくれるわけではない。ローラ(ローラ・ダーン)の情事は不倫だし、ジーナ(ミシェル・ウィリアムズ)が心待ちにしている砂岩による新居建築に夫や娘は無関心、ジェイミー(リリー・グラッドストーン)が心を通わせたいエリザベス(クリステン・スチュワート)は「遠く」の人。

 

彼女たちは、自分の内面を理解してほしいという願いは捨てきれず、しかし直接語るほどの期待は持てず、かといって諦めの境地にまでは到達できない。だから、他者への期待も失望も、すべて自分の中で消化するしかない。つまり、極めて小説的な内容であり小説向きの描写を、映像という表現で試みた作品のように思われる。したがって、本作の評価は作り手だけでは達成できず、その半分は読み手の感性や能力に委ねられている。

 

原題が「Certain Women」であり、実際に主軸を担う人物が女性たちであるように、確かに本作は女性ならではの問題なり葛藤が描かれているとも受け止められるが、ケリー・ライカートの透徹した観察によって提示される彼女たちの姿には、「社会で生きる個人」が追わされた普遍的な孤独と願望が浮かび上がってくる。ジェンダーを含め様々な社会的立場から流れ出る不遇それ自体が糾弾の対象なのではなく(訴因消滅に起因するエピソードがそれを語っているようにも思われる)、〈個人〉という存在が負わされた不条理をどのように超克すべきかを「彼女たち」は模索している。沈黙のなかで。敵も競争相手もいない、静かなる闘い。それは、静寂のなかひっそりゆっくりと訪れるが、やがて轟音となり、通り過ぎるには長い長い時間がかかる。オープニングショットの荒野を走る貨物列車のように。

 

※現在U-NEXTでは、昨夏に盛況だったケリー・ライカート特集上映のラインナップ(『リバー・オブ・グラス』『オールドジョイ』『ウェンディ&ルーシー』『ミークス・カットオフ』)が配信されていて(各399円)、それに本作(199円)と『ナイト・スリーパーズ ダム爆破計画(Night Moves)』(見放題)も配信されているので、ケリー・ライカートの長編作品が全作観られる。(ちなみに、本作と『ナイト〜』はAmazonプライムでも配信されている。) その一方で、日本で配給が決まったらしい『First Cow』(2019)の公開予定がまだ聞こえてこない…。(そうこうしている内に、もう最新作ではなくなってしまった…)

 

※ケリー・ライカートの新作(『Showing Up』)は、開催中のカンヌのコンペに選出されている。キャストのなかにTheo Taplitz(劇場未公開の傑作『リトル・メン』の主演)を見つけ、アイラ・サックス作品との架橋に胸躍る。ガス・ヴァン・サントの『エレファント』のジョン(黄色いTシャツを着ていた)を演じたジョン・ロビンソンは、『ウェンディ&ルーシー』に出ていたのだが、『エレファント』でジョンに説教をする先生役だったマット・マロイが新作には再び出演する(『ナイト〜』にも出演していた)。こちらのポートランドつながり(?)も、ライカート作品を観るときのひとつの楽しみかも。