『ニューオーダー』ミシェル・フランコ

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原題:Nuevo orden

監督:ミシェル・フランコMichel Franco

 

本作は2020年のヴェネツィア国際映画祭審査員グランプリを受賞しているのだが、その他の受賞結果を目を向けてみると、金獅子賞『ノマドランド』(クロエ・ジャオ)、監督賞『スパイの妻』(黒沢清)、審査員特別賞『親愛なる同志たちへ』(アンドレイ・コンチャロフスキー)。パンデミック直後(最中?)の開催でもあったし、受賞作の多くが見事に《disorder》を背景とした作品。時代の空気と共振共鳴したのだろうか。ちなみに、前年(2019年)の金獅子賞は『ジョーカー』(審査員グランプリは『オフィサー・アンド・スパイ』)なので、不穏は既に始まっていたようなのだが。

 

 

暴徒が投げつける緑の液体(水道からも緑の水が出たり)、マリアンの着ている赤い服。映画の終わりに浮かび上がって来るメキシコ国旗の緑と赤、そして白。緑や赤がどんなに右往左往したところで、それらはあくまで〈国家〉の支配下で起こる微視的な揉め事に過ぎない。緑が赤になろうが、赤が緑になろうが、緑は緑のあるべき場所へ、赤は赤のあるべき場所へ、そうして三色旗の下で正しく等しく成敗されるのが〈国民〉。そういった意味では、貴賤貧富の差などない。あるとすれば、それは単なる物理的な違いだけ。だから、相対的な位置の変化は力学上の関係性を変えるが、それは「倒錯」ではない。n進法の移行による単なる読みかえのようなもの。

 

それを裏書きするかのように、秩序が崩壊して混沌としたかに思える社会においても、人々の金(money)への執着はなくならない。どんなにカオティックのように思えても、そこには一元的な欲望原理が働き続ける。だから、秩序(order)はなくならない。ただ、新しくなるだけ。喜びを分かち合えなくなった社会が生んだ、新たな秩序。美学なき権力。共和国の崩壊、そして後悔。次なる闘争の、位置について…。