『切手デザイナーの仕事』間部香代(グラフィック社)

切手デザイナーの仕事 間部 香代(著/文) - グラフィック社 | 版 ...

 

本書のタイトルは『切手デザイナーの仕事〜日本郵便 切手・葉書室より〜』。最初、副題に「?」となったものの、冒頭に説明がある。

 

「切手デザイナーという職業がある。

彼らは日本郵便の職員で、現在8人。

1年に約40件発行されている特殊切手、そしてもちどん普通切手も含め、

日本の切手は、8人でデザインをしている。」

 

本書の執筆は、筆者が日本郵便の切手・葉書室の室長と「ご一緒する機会があった」ときに「いつか切手デザイナーの本を書いてみたい」とこぼしたことから、取材の許可を得て始まる。その後、企画書を筆者自身が書いてグラフィック社に送って出版が決まる。

 

切手デザイナーたちの話で共通するのは、「自らの個性を実現する場ではなく、多くの人に好感がもたれるデザインの必要性」だ。これは切手というモノならではの宿命であるが、そうした側面を面白がれる人こそが続けられる仕事でもある。例えば「色」に関して言えば、消印が見えにくい暗い色は避けなければならない。また、「日本郵便」「NIPPON」や料額の数字といった必ず入れるべき文字があり、それも「見えやすく」なくてはならない。その他にも、サイズや印刷技術、コスト等さまざまな制約の中でつくられるデザイン。多く人が使うものである一方、収集家などのマニア(「郵趣家」というらしい)も多く存在する。特殊性の尖りはそぎ落としながら、それでも際立つ何かを残そうとする、そんな仕事であるように思える。

 

各デザイナーたちがどのようにして今の仕事に至ったのか、仕事のこれまでの苦労話、仕事に対する美学など、ひとりひとりの「人となり」にも迫っているため、共通する世界観と共に各人が展開してきた人生模様が浮かび上がって興味深い。「物語」を書くのが好きという著者が、8人のデザイナーひとりひとりのドラマを描くようにして、インタビュー内容をちりばめている。また、実際の切手の画像も多く掲載されており(しかも見やすい)、話の内容がよりリアルに理解できるつくりであるのが嬉しい。

 

切手への興味がわくのは勿論、手紙を書きたくなる気持ちに駆られる読後感だった。