2023-01-01から1年間の記事一覧

『建築家は住まいの何を設計しているのか』藤山和久(筑摩書房)

建築というものに漠然とした興味は常に持っているので、本書も自然と手にとったのだが、「建築家」「設計」といった単語から想像するような大仰なテーマではなく、「住宅設計に関する小話の集まり」で、筆者も「住宅業界の関係者なら、いずれもおなじみの話…

『瞬間』ヴィスワヴァ・シンボルスカ(未知谷)

1996年にノーベル文学賞を受賞したシンボルスカが、受賞後はじめて出版した詩集が本作だという。どの詩も静謐さと重厚さをたたえながら、軽やかな語りを拒んでもいない。 裏表紙にも印刷されている「とてもふしぎな三つのことば」は、三つの文から成る。 「…

『体はゆく できるを科学する〈テクノロジー×身体〉』伊藤亜紗(文藝春秋)

本書の目的は、「できるようになる」ことの不思議さや豊かさを改めて想起させ、能力主義(「できる=すぐれている」「できない=劣っている」といった価値観)によって奪われてしまった「できる」の醍醐味を取り戻す。そのために五名の研究者(古屋晋一、柏…

『「気の持ちよう」の脳科学』毛内拡(ちくまプリマー新書)

著者は「もうないひろむ」と読む。専門は神経生理学、生物物理学。 「はじめに」の冒頭で筆者は言う。 「心の病は、心の弱さのせいではない。脳という臓器の疾患だ。 これが本書を通して僕が一番伝えたいことだ。」 心に起こる変化はすべて身体のメカニズム…

『時ありて』イアン・マクドナルド(早川書房)

原題:TIME WAS(下楠昌哉 訳) 「古書ディーラーのエメット・リーが、閉店する書店の在庫の山から偶然手にした詩集『時ありて』。凝った造本の古ぼけた詩集には、一枚の手紙が挟まれ、エジプトで書かれたと思われるその手紙には、第二次大戦下を生きた二人…

『読書道楽』鈴木敏夫(筑摩書房)

鈴木敏夫という人物に改めて興味を持ったのは、書籍『ALL ABOUT TOSHIO SUZUKI』に触れてからで、それは同時に、物事に取り組むときの自覚的な「編集」という観点の獲得にもつながった。鈴木敏夫の仕事の流儀は彼ならではものだし、決して真似などできないの…

『製本屋と詩人』イジー・ヴォルケル(共和国)

(大沼有子 訳、2022年) 本書には、「二十世紀のチェコを代表する革命詩人、イジー・ヴォルケル(1900−24)が、二十四年足らずという短い生涯のうちに数多く遺した物語や詩などから、訳者が選んで収録」されている。「日本でヴォルケルの作品がまとまって紹…

『White Eye(白い自転車)』Tomer Shushan

原題:White Eye 監督:Tomer Shushan ブリリア ショートショートシアター ONLINEにて観賞。(1月11日まで配信) アカデミー賞の短篇映画賞にもノミネートされた本作。20分弱の本編はワンカット。夜のT字路で交錯する人生が語る「正義」の不条理。短篇とい…

『PACHINKO/パチンコ』コゴナダ、ジャスティン・チョン(Apple TV+)

原題:Pachinko 監督:Kogonada(第1話〜第3話、第7話) Justin Chon(第4話〜第6話、第8話) 音楽:Nico Muhly 撮影:Ante Cheng(『ブルー・バイユー』) Florian Hoffmeister(「Tár」) 以前、一年間無料でApple TV+が見られたにも関わらず、見逃したま…

『宗教を「信じる」とはどういうことか』石川明人(ちくまプリマー新書)

自身もキリスト教徒である筆者は本書で「『信じる』という言葉の意味や、その行為の曖昧さについて問いながら、宗教という人間ならではの不思議な営みについて考えていきたい」と言って、語り始める。特定の信仰を持っていない私にとって、一般的な「信じる…

『香港少年燃ゆ』西谷格(小学館)

年末にポレポレ東中野で『少年たちの時代革命』と『理大囲城』を見た。2019年の香港でのデモに関する知識が乏しかった私は、その後、たまたま本書を手に取った。筆者が香港のデモ現場で出会った少年(2019年当時15歳)を「取材」し続ける(2021年にも彼を追…