2022-11-01から1ヶ月間の記事一覧

『冬の旅』アニエス・ヴァルダ

原題:Sans toit ni loi(英題:Vagabond) 監督:Agnès Varda 本作は、主人公であるモナの死体が発見される場面から始まる。そして、彼女と出会った人々の証言に導かれながら、彼女の旅路が映し出されていく。彼女の末路は前提となるも、旅の始まりは全く描…

『新訳 老人と海』アーネスト・ヘミングウェイ、今村楯夫 訳(左右社)

本書には、60頁以上にわたる「訳者解説」がある。その中で、訳者の今村氏は次のように語っている。 「私が新たな翻訳に挑戦してみたいという思いを抱くに至った理由は、自分の納得できる言葉と表現で訳してみたいという思いと、これまでの翻訳書がいずれも、…

『アーレントの哲学 複数的な人間的生』橋爪大輝(みすず書房)

「本書は、筆者が研究生活を開始してから現時点までのアーレント研究の、ひとまずの集大成という位置づけをもつ。」(「あとがき」より) 筆者の博士論文を基づき、大幅な改稿を行って書籍化された本書は、学術研究然とした佇まいを持ちながらも、適宜身近な…

『ハンナ・アレント 全体主義という悪夢』牧野雅彦(講談社現代新書)

「アレントをまだ一度も読んだことのない人に、そのエッセンスをわかりやすく説明する」という編集者から与えられた課題に応えるように、100頁ほどのコンパクトに凝縮された内容は、アレントが語った全体主義の本質に触れる好機を与えてくれる。 一気呵成に…

『アフター・ヤン』コゴナダ

原題:After Yang 監督:Kogonada “テクノ”と呼ばれる人型ロボットが、一般家庭にまで普及した未来世界。茶葉の販売店を営むジェイク、妻のカイラ、中国系の幼い養女ミカは、慎ましくも幸せな日々を送っていた。しかしロボットのヤンが突然の故障で動かなく…

『大都市はどうやってできるのか』山本和博(ちくまプリマー新書)

ちくまプリマー新書は、中高生でも読みやすいことを念頭に書かれていることもあって、表現のみならず内容的にも「親切さ」と「公平さ」への意識が非常に高い印象があり、読みやすさのみならず、思考の広がりをもたらしてくれる良書が多い。そんなこともあっ…

『映画をめぐるディアローグ ゴダール/オフュルス全対話』

ジャン=リュック・ゴダール × マルセル・オフュルス 序文:ヴァンサン・ロヴィ、アンドレ・ガズュ 後記:ダニエル・コーン=ベンディット 福島勲 訳 (読書人、2022年) ジャン=リュック・ゴダールとマルセル・オフュルスが行った二度の公開対談(2002年、…

『アホウドリの迷信 現代英語圏異色短篇コレクション』(岸本佐和子、柴田元幸 編訳)

(発行:スイッチ・パブリッシング、2022年) 短編小説アンソロジーである本書には、岸本と柴田の両名がMONKEY23号(2021年春)の特集「ここにいいものがある。」のために選んで訳した各三作家の作品に、単行本用に新たに一作家一作品ずつを加えて収められて…

『融合しないブレンド』庄野雄治

筆者の庄司雄治氏は「アアルトコーヒー」を徳島市内に開店(2006年)したコーヒーロースター。2014年には「14g」という二店めも開店している。 徳島に住んでいた知人から一度、「アアルトコーヒー」のコーヒー豆をもらったことがある。個人的にものすごい好…

「PICU 小児集中治療室」第5回

(2022年11月7日月曜放送) 脚本:倉光泰子 武四郎(吉沢亮)の幼い頃からの親友・悠太(高杉真宙)が大量の睡眠薬を飲んで緊急搬送されてきた。武四郎は悠太が自殺を図ったとは信じたくない。しかし、悠太からの荷物(先日武四郎から借りた服が入っていた)…

池田亮司「data.gram」(TARONASU)

会場:TARONASU(入場無料) 東京都現代美術館での個展「the infinite between 0 and 1」(2009)を見たことがあり、その時に味わった独特な感覚がいまでも記憶に残っている。同展では音と光によって包まれた空間そのものが放っているアウラのようなものに身を…

『新しいアートのかたち——NFTアートは何を変えるか』施井泰平(平凡社新書)

ちなみに、著者の名は「しいたいへい」と読む。自身も現代美術家であり、デジタル・アートを扱う会社を設立している。解説はいずれもわかりやすく(例えば「ブロックチェーン」が何なのかを知らなかった私でも、そういった世界観にすんなりアクセスできるよ…

『ホテル』ワン・シャオシュアイ

原題:The Hotel(旅館) 監督:王小帥(Xiaoshuai Wang) 東京フィルメックスにて鑑賞 ワン・シャオシュアイの監督作で個人的に最も印象に残っているのは『重慶ブルース』だったりするのだが、同作は東京国際映画祭で観たきり観られていない(劇場未公開)…

『地中海熱』マハ・ハジ

原題:Mediterranean Fever 監督:Maha Haji 東京フィルメックスにて鑑賞 長編一作目、二作目(本作)と続けてカンヌの「ある視点」部門で上映されたマハ・ハジ監督は、本作で脚本賞を受賞。プロットの妙というより、一つ一つの描写を丁寧に積み重ねていく物…

『R.M.N.』クリスティアン・ムンジウ

原題:R.M.N. 監督:Cristian Mungiu 東京国際映画祭にて鑑賞 人間にとって「合理的」の「理」とは、必ずしも論理や理性の「理」ではない。 正当化すべき感情が先立つとき、理屈は単なる手段へと堕す。 地元の働き手は出稼ぎへ行き、人手不足となったパン工…

『クロンダイク』マリナ・エル・ゴルバチ

原題:Klondike 監督:Maryna Er Gorbach 東京国際映画祭にて鑑賞。 ウクライナに在りながら、親ロシア派勢力が高まるドネツク地方で、「壁」を失った家に住み続けようとする子を宿した妻と、何とか逃げようとする夫。イデオロギーらしきものによって引き裂…

旅する大理石 ギリシャから中国へ(BS世界のドキュメンタリー)

TV

原題:A Marble Travelogue 中国において近代化の象徴として用いられる大理石。 世界における大理石の6割を、中国が輸入しているという。 そもそもなぜ「大理石」と言うのかと思って調べてみると・・・ 「中国雲南省大理県に産するものが有名であるところから…