2022-01-01から1年間の記事一覧
原題:Tourment sur les îles 監督:Albert Serra 東京国際映画祭にて鑑賞。 日仏学院(現在のアンスティチュ・フランセ東京)でアルベルト・セラの作品を初めて観たのは、もう10年前になる。(2022年の2月だった) フランス語字幕で観た『騎士の名誉』と英…
原題:Onde Fica Esta Rua? 監督:João Rui Guerra da Mata、João Pedro Rodrigues 東京国際映画祭で鑑賞。 パウロ・ローシャ『青い年(Os Verdes Anos)』をめぐるドキュメンタリー。 同作は、日本で劇場公開された初めてのポルトガル映画らしい。(1980年…
原題:Fogo-Fátuo(英題:Will-o'-the-Wisp) 監督:João Pedro Rodrigues 東京国際映画祭(2022)にて鑑賞。 ジョアン・ペドロ・ロドリゲスのレトロスペクティブが企画され、クラウドファンディングに参加して、アテネフランセ文化センターでの上映に心躍り…
国立新美術館開館15周年記念 李禹煥 Lee Ufan 2022年8月10日〜11月7日(国立新美術館) 2022年12月13日〜2023年2月12日(兵庫県立美術館) 展覧会図録に収められている李自身の文章「見ることの身体的陽性」の中に、次のようなエピソードが紹介されている。 …
『石が書く』ロジェ・カイヨワ(菅谷暁訳、創元社、2022年) 本書には、パスカルの『パンセ』から次の一節が引用されている。 「現物を賛嘆することはないのに、それに似ていることによって賛嘆を引き寄せる絵画とはなんと空しいものか」 この一節が本書の語…
「映画批評月間 Vol.04 フランス映画の現在をめぐって」にて鑑賞 (会場:ユーロスペース) ブリュノ・デュモンがレア・セドゥを主演に映画を撮るという事実自体が既に興味深いのだが、実際に見てみると、「スター映画」の変化球としての居心地の悪さ、社会…
私も少しまえに身内が他界したこともあって、母を亡くした母親の方に自分の感情が向かいながら見はじめる。身内の死はまさに、身の内に大きな欠落が起こる喪失感であり、自分の一部(感じ方によっては半分、それ以上)が失われるような感覚になる。その要因…
原題:Bruno Reidal 監督:ヴァンサン・ル・ポール(Vincent Le Port) 「映画批評月間 Vol.04 フランス映画の現在をめぐって」にて鑑賞 (会場:ユーロスペース) 共感や感情移入のみが作品受容の原動力になってしまうのは、文芸を嗜むうえで至極残念な態度…
冒頭で筆者は、「僕は小説家なのですが、京都大学の法学部出身です。小説家なのに文学部出身ではないことに、実は少しコンプレックスも感じていました」と述べている。そうした言明には、文学者として述べられることを述べようとしている覚悟と、法学を志す…
『Corniche Kennedy』(2016) 監督:ドミニク・カブレラ(Dominique Cabrera) (MUBIにて鑑賞) 日本にはほとんど紹介されていないドミニク・カブレラ監督による2016年の作品。ローラ・クレトン(Lola Créton)の主演作ということで観てみることにした。彼…
『わたしたちの登る丘(The Hill We Climb)』アマンダ・ゴーマン (鴻巣友季子訳、文春文庫、2022年) アマンダ・ゴーマンは大学を卒業したばかりの22歳の詩人。そんな彼女がバイデンの大統領就任式で読んだ詩が本作「わたしたちの登る丘」。バイデン大統領…
『パッシング/流砂にのまれて』ネラ・ラーセン (鵜殿えりか訳、みすず書房、2022年) 昨年Netflixで配信された、レベッカ・ホール初監督作『PASSING―白い黒人―』の原作。 「パッシング」とは、肌の色の白い黒人が自らを白人と称して行動する実践を指す。公…
原題:Cha Cha Real Smooth 監督:クーパー・レイフ(Cooper Raiff) (Apple TV+にて鑑賞) 監督・脚本・主演を務めるクーパー・レイフは1997年生まれの25歳ながら、本作は長編監督作2作目。1作目の『Shithouse』は2020年のSXSW(サウス・バイ・サウスウエ…
原題:Flugt 監督:ヨナス・ポヘール・ラスムセン(Jonas Poher Rasmussen) カタカナにすると〈自由〉と同じ「フリー」。しかし、“FLEE”は“FREE”を許されない場所から逃げること。主人公アミンが「自分の居場所」に辿り着くまでの物語だが、そこには、安全…
作家や展示内容についてよく知らず、チラシのメインビジュアルである写真に引き付けられて足を運んでみると、その写真の地(チベット高原のカイラス山)を作家が訪れることになった「物語」があり、それこそが今回の展示を駆動していることを知る。 「木原千…
『石を黙らせて』李龍徳[イ・ヨンドク](講談社、2022年) タイトルと装丁に惹かれて手に取った。だから、読み始めてから驚いた。主人公の男性は17歳の時に友人と女性を強姦した。その罪を償うことなく生きてきた。しかし、結婚を控えた主人公を「良心の呵…
第75回トニー賞の演劇部門において作品賞、演出賞、主演男優賞、装置デザイン賞、照明デザイン賞の5部門で受賞を果たした『リーマン・トリロジー』。ロンドン公演を収録したナショナル・シアター・ライブ(NTLive)が一週間限定でTOHOシネマズ日本橋にて再公…
公式サイト 原題:Nuevo orden 監督:ミシェル・フランコ(Michel Franco) 本作は2020年のヴェネツィア国際映画祭で審査員グランプリを受賞しているのだが、その他の受賞結果を目を向けてみると、金獅子賞『ノマドランド』(クロエ・ジャオ)、監督賞『スパ…
写真に対する個人的な興味関心は、人物よりも風景、自然よりも都市空間にある。となれば、このような写真に吸い寄せられるのは必然。レタッチという“加工”が施されたことによって生まれるフラットな感触は、エドワード・ホッパーの絵画を思わせたりもする。 …
『シティポップとは何か』柴崎祐二(河出書房新社、2022年) 「シティポップ」という定義は昨今のブームで刷新され定着した感があったが、本書を読むとそういった体感の正体が見事に“証明”され、肯きの心地よさと思考発展への好奇心で読み止す間も惜しく読了…
『ビッグ・イン・ジャパンの時代(BURRN! 叢書 29)』 (シンコーミュージック・エンタテイメント、2022年) 雑誌『BURRN!』編集部員の幅由美子が、同誌編集長の広瀬和生にインタビューする形式。最初(第1章 総論)と最後(第13章 総括)で90年代を中心と…
原題:Donbass 監督:セルゲイ・ロズニツァ(Sergei Loznitsa) ドキュメンタリー映画3作品が2020年に初めて劇場公開されたセルゲイ・ロズニツァが2018年に発表した本作は、「劇映画」。事実に対峙する姿勢、真理を追究する方途は、ドキュメンタリーでのそれ…
「ボテロ展 ふくよかな魔法」 会場:Bunkamura ザ・ミュージアム 期間:4月29日〜7月3日 複製技術に拠って立つ映画の場合、何を(何処で)見れば「本物を見た」ことになるのかが難しいが、絵画や彫刻などの美術作品であればそれが明白である故に、体験そのも…
公式サイト ソーシャル・ディスタンス。付かず離れず。関係と無関係のあいだ。 〈他者〉が〈自己〉にとって持ち得る意味。それによって自分が相手をどう思っているか、相手が自分をどう思っているか、それを知る。自分自身に空虚を感じている場合、そうした…
『映画を早送りで観る人たち ファスト映画・ネタバレ——コンテンツ消費の現在形』 稲田豊史(光文社新書、2022年) 基本的な疑問を多角的に掘り下げ、考察している。論理的でありながら、個人的な感情なり信条なりも反映させつつ書かれているため、納得のみな…
監督:アンドリュー・ドロス・パレルモ(Andrew Droz Palermo) 原題:One & Two(2015) Netflixでの配信がひとまず6月6日迄ということで観た(けど、U-NEXTでは見放題のままだった)。ティモシー・シャラメがブレイクする前、2015年の主演映画(といっても…
『ファミリア・グランデ』カミーユ・クシュネル(土居佳代子訳、柏書房、2022年) 本書には冒頭に「訳者まえがき」がある。(私は「訳者あとがき」から最初に読む癖があるので、物理的位置に関わらず前もって読んでいただろうが。)そこでは、本書の出版時(…
トニー・スコットが監督したトム・クルーズ主演の『トップガン』(ト揃いな映画だったんだな)を初めて観たのは、トニー・スコット追悼特集として組まれた早稲田松竹の2本立てだった。今から10年前の2012年。彼の遺作となってしまった『アンストッパブル』が…
住友コレクションの一角を占める近代洋画は、住友吉左衞門友純(春翠)が明治30年(1897)の欧米視察中のパリで印象派の画家モネの油彩画2点を入手した事に始まりますが、その一方で同時代のジャン=ポール・ローランスなどフランス・アカデミーの古典派絵…
『氷の城』タリアイ・ヴェーソス (朝田千惠/アンネ・ランデ・ペータス訳、国書刊行会、2022年) 20世紀ノルウェー文学を代表する作家・詩人であるタリアイ・ヴェーソスは、ノーベル文学賞に30回もノミネートされたという。初めて読む私はその情報に畏れ構…