『アホウドリの迷信 現代英語圏異色短篇コレクション』(岸本佐和子、柴田元幸 編訳)

(発行:スイッチ・パブリッシング、2022年) 短編小説アンソロジーである本書には、岸本と柴田の両名がMONKEY23号(2021年春)の特集「ここにいいものがある。」のために選んで訳した各三作家の作品に、単行本用に新たに一作家一作品ずつを加えて収められて…

『融合しないブレンド』庄野雄治

筆者の庄司雄治氏は「アアルトコーヒー」を徳島市内に開店(2006年)したコーヒーロースター。2014年には「14g」という二店めも開店している。 徳島に住んでいた知人から一度、「アアルトコーヒー」のコーヒー豆をもらったことがある。個人的にものすごい好…

「PICU 小児集中治療室」第5回

(2022年11月7日月曜放送) 脚本:倉光泰子 武四郎(吉沢亮)の幼い頃からの親友・悠太(高杉真宙)が大量の睡眠薬を飲んで緊急搬送されてきた。武四郎は悠太が自殺を図ったとは信じたくない。しかし、悠太からの荷物(先日武四郎から借りた服が入っていた)…

池田亮司「data.gram」(TARONASU)

会場:TARONASU(入場無料) 東京都現代美術館での個展「the infinite between 0 and 1」(2009)を見たことがあり、その時に味わった独特な感覚がいまでも記憶に残っている。同展では音と光によって包まれた空間そのものが放っているアウラのようなものに身を…

『新しいアートのかたち——NFTアートは何を変えるか』施井泰平(平凡社新書)

ちなみに、著者の名は「しいたいへい」と読む。自身も現代美術家であり、デジタル・アートを扱う会社を設立している。解説はいずれもわかりやすく(例えば「ブロックチェーン」が何なのかを知らなかった私でも、そういった世界観にすんなりアクセスできるよ…

『ホテル』ワン・シャオシュアイ

原題:The Hotel(旅館) 監督:王小帥(Xiaoshuai Wang) 東京フィルメックスにて鑑賞 ワン・シャオシュアイの監督作で個人的に最も印象に残っているのは『重慶ブルース』だったりするのだが、同作は東京国際映画祭で観たきり観られていない(劇場未公開)…

『地中海熱』マハ・ハジ

原題:Mediterranean Fever 監督:Maha Haji 東京フィルメックスにて鑑賞 長編一作目、二作目(本作)と続けてカンヌの「ある視点」部門で上映されたマハ・ハジ監督は、本作で脚本賞を受賞。プロットの妙というより、一つ一つの描写を丁寧に積み重ねていく物…

『R.M.N.』クリスティアン・ムンジウ

原題:R.M.N. 監督:Cristian Mungiu 東京国際映画祭にて鑑賞 人間にとって「合理的」の「理」とは、必ずしも論理や理性の「理」ではない。 正当化すべき感情が先立つとき、理屈は単なる手段へと堕す。 地元の働き手は出稼ぎへ行き、人手不足となったパン工…

『クロンダイク』マリナ・エル・ゴルバチ

原題:Klondike 監督:Maryna Er Gorbach 東京国際映画祭にて鑑賞。 ウクライナに在りながら、親ロシア派勢力が高まるドネツク地方で、「壁」を失った家に住み続けようとする子を宿した妻と、何とか逃げようとする夫。イデオロギーらしきものによって引き裂…

旅する大理石 ギリシャから中国へ(BS世界のドキュメンタリー)

TV

原題:A Marble Travelogue 中国において近代化の象徴として用いられる大理石。 世界における大理石の6割を、中国が輸入しているという。 そもそもなぜ「大理石」と言うのかと思って調べてみると・・・ 「中国雲南省大理県に産するものが有名であるところから…

『時の中の自分』外尾悦郎

『時の中の自分』外尾悦郎(道友社、2022年) この本の内容は、2019年12月に天理大学で行われた講演が元になっているのだが、外尾氏は同大学の客員教授であるらしい。また、この本の出版元も天理教関連の書籍を発行している天理教道友社。ただ、講演内容に天…

『パシフィクション』アルベルト・セラ

原題:Tourment sur les îles 監督:Albert Serra 東京国際映画祭にて鑑賞。 日仏学院(現在のアンスティチュ・フランセ東京)でアルベルト・セラの作品を初めて観たのは、もう10年前になる。(2022年の2月だった) フランス語字幕で観た『騎士の名誉』と英…

この通りはどこ? あるいは、今ここに過去はない(ジョアン・ペドロ・ロドリゲス、ジョアン・ルイ・ゲーラ・ダ・マタ)

原題:Onde Fica Esta Rua? 監督:João Rui Guerra da Mata、João Pedro Rodrigues 東京国際映画祭で鑑賞。 パウロ・ローシャ『青い年(Os Verdes Anos)』をめぐるドキュメンタリー。 同作は、日本で劇場公開された初めてのポルトガル映画らしい。(1980年…

鬼火(ジョアン・ペドロ・ロドリゲス)

原題:Fogo-Fátuo(英題:Will-o'-the-Wisp) 監督:João Pedro Rodrigues 東京国際映画祭(2022)にて鑑賞。 ジョアン・ペドロ・ロドリゲスのレトロスペクティブが企画され、クラウドファンディングに参加して、アテネフランセ文化センターでの上映に心躍り…

李禹煥(国立新美術館)

国立新美術館開館15周年記念 李禹煥 Lee Ufan 2022年8月10日〜11月7日(国立新美術館) 2022年12月13日〜2023年2月12日(兵庫県立美術館) 展覧会図録に収められている李自身の文章「見ることの身体的陽性」の中に、次のようなエピソードが紹介されている。 …

『石が書く』ロジェ・カイヨワ

『石が書く』ロジェ・カイヨワ(菅谷暁訳、創元社、2022年) 本書には、パスカルの『パンセ』から次の一節が引用されている。 「現物を賛嘆することはないのに、それに似ていることによって賛嘆を引き寄せる絵画とはなんと空しいものか」 この一節が本書の語…

『フランス』ブリュノ・デュモン

「映画批評月間 Vol.04 フランス映画の現在をめぐって」にて鑑賞 (会場:ユーロスペース) ブリュノ・デュモンがレア・セドゥを主演に映画を撮るという事実自体が既に興味深いのだが、実際に見てみると、「スター映画」の変化球としての居心地の悪さ、社会…

『秘密の森の、その向こう』セリーヌ・シアマ

私も少しまえに身内が他界したこともあって、母を亡くした母親の方に自分の感情が向かいながら見はじめる。身内の死はまさに、身の内に大きな欠落が起こる喪失感であり、自分の一部(感じ方によっては半分、それ以上)が失われるような感覚になる。その要因…

『ブリュノ・レダル、ある殺人者の告白』

原題:Bruno Reidal 監督:ヴァンサン・ル・ポール(Vincent Le Port) 「映画批評月間 Vol.04 フランス映画の現在をめぐって」にて鑑賞 (会場:ユーロスペース) 共感や感情移入のみが作品受容の原動力になってしまうのは、文芸を嗜むうえで至極残念な態度…

『死刑について』平野啓一郎(岩波書店)

冒頭で筆者は、「僕は小説家なのですが、京都大学の法学部出身です。小説家なのに文学部出身ではないことに、実は少しコンプレックスも感じていました」と述べている。そうした言明には、文学者として述べられることを述べようとしている覚悟と、法学を志す…

『Corniche Kennedy』ドミニク・カブレラ

『Corniche Kennedy』(2016) 監督:ドミニク・カブレラ(Dominique Cabrera) (MUBIにて鑑賞) 日本にはほとんど紹介されていないドミニク・カブレラ監督による2016年の作品。ローラ・クレトン(Lola Créton)の主演作ということで観てみることにした。彼…

「わたしたちの登る丘」アマンダ・ゴーマン

『わたしたちの登る丘(The Hill We Climb)』アマンダ・ゴーマン (鴻巣友季子訳、文春文庫、2022年) アマンダ・ゴーマンは大学を卒業したばかりの22歳の詩人。そんな彼女がバイデンの大統領就任式で読んだ詩が本作「わたしたちの登る丘」。バイデン大統領…

「パッシング」ネラ・ラーセン

『パッシング/流砂にのまれて』ネラ・ラーセン (鵜殿えりか訳、みすず書房、2022年) 昨年Netflixで配信された、レベッカ・ホール初監督作『PASSING―白い黒人―』の原作。 「パッシング」とは、肌の色の白い黒人が自らを白人と称して行動する実践を指す。公…

『チャチャ・リアル・スムース』クーパー・レイフ

原題:Cha Cha Real Smooth 監督:クーパー・レイフ(Cooper Raiff) (Apple TV+にて鑑賞) 監督・脚本・主演を務めるクーパー・レイフは1997年生まれの25歳ながら、本作は長編監督作2作目。1作目の『Shithouse』は2020年のSXSW(サウス・バイ・サウスウエ…

『FLEE フリー』ヨナス・ポヘール・ラスムセン

原題:Flugt 監督:ヨナス・ポヘール・ラスムセン(Jonas Poher Rasmussen) カタカナにすると〈自由〉と同じ「フリー」。しかし、“FLEE”は“FREE”を許されない場所から逃げること。主人公アミンが「自分の居場所」に辿り着くまでの物語だが、そこには、安全…

木原千裕「Wonderful Circuit」

作家や展示内容についてよく知らず、チラシのメインビジュアルである写真に引き付けられて足を運んでみると、その写真の地(チベット高原のカイラス山)を作家が訪れることになった「物語」があり、それこそが今回の展示を駆動していることを知る。 「木原千…

『石を黙らせて』李龍徳(講談社)

『石を黙らせて』李龍徳[イ・ヨンドク](講談社、2022年) タイトルと装丁に惹かれて手に取った。だから、読み始めてから驚いた。主人公の男性は17歳の時に友人と女性を強姦した。その罪を償うことなく生きてきた。しかし、結婚を控えた主人公を「良心の呵…

NTLive『リーマン・トリロジー』(演出:サム・メンデス)

第75回トニー賞の演劇部門において作品賞、演出賞、主演男優賞、装置デザイン賞、照明デザイン賞の5部門で受賞を果たした『リーマン・トリロジー』。ロンドン公演を収録したナショナル・シアター・ライブ(NTLive)が一週間限定でTOHOシネマズ日本橋にて再公…

『ニューオーダー』ミシェル・フランコ

公式サイト 原題:Nuevo orden 監督:ミシェル・フランコ(Michel Franco) 本作は2020年のヴェネツィア国際映画祭で審査員グランプリを受賞しているのだが、その他の受賞結果を目を向けてみると、金獅子賞『ノマドランド』(クロエ・ジャオ)、監督賞『スパ…

安藤瑠美「TOKYO NUDE」

写真に対する個人的な興味関心は、人物よりも風景、自然よりも都市空間にある。となれば、このような写真に吸い寄せられるのは必然。レタッチという“加工”が施されたことによって生まれるフラットな感触は、エドワード・ホッパーの絵画を思わせたりもする。 …